Notes
ユトレヒトは、オランダ中部に位置する同国最古の都市のひとつであり、宗教建築と美術・音楽の伝統が長く積み重なってきた文化都市である。
その文化的過去の中心にあるのは、街のシンボルであるドムトーレン(ドム塔)を擁するドム教会であり、中世以来ユトレヒトはオランダにおける宗教的中心地としての地位を保ってきた。17世紀には、カラヴァッジョの影響を受けた画家たちの一派「ユトレヒト・カラヴァジェスキ(Utrecht Caravaggisti)」がこの街で活動し、ヘンドリック・テル・ブルッヘンやヘラルト・ファン・ホントホルストといった画家たちが、劇的な明暗法を用いた作品でオランダ黄金時代美術に独自の足跡を残した。20世紀に入ると、画家テオ・ファン・ドースブルフを中心とする芸術運動デ・ステイルとも縁が深く、建築家ヘリット・リートフェルトがユトレヒト市内に設計した「リートフェルト・シュレーダー邸」は、その理念を建築として体現した代表作として知られる。
現在のユトレヒトは、こうした歴史的遺産を基盤としつつ、活気ある現代的な文化都市としての顔を持つ。中央美術館(Centraal Museum)は市の美術コレクションを収蔵し、リートフェルトやユトレヒト・カラヴァジェスキ関連の作品も所蔵する主要機関である。旧市街を流れる運河沿いには、書店やギャラリー、カフェが並び、街全体が徒歩で回れる文化的散策路のような性格を持つ。音楽面では、ユトレヒトはオランダを代表するコンサートホールのひとつであるティフォーンハル(TivoliVredenburg)を擁し、クラシックからポピュラー音楽まで幅広いプログラムを提供している。
学生都市としての性格も、街の文化的活力を支える重要な要素である。ユトレヒト大学をはじめとする高等教育機関の存在により、若い世代の観客や表現者が絶えず流入し、劇場や小規模な音楽会場、独立系映画館などが市内各所で活動を続けている。